
今シーズンのテーマは"expired"(=賞味期限切れ)。 テーマの鍵となったのは、世の中の「便利」の象徴であり、日本をはじめ広く親しまれているコンビニエンスストアだ。 コンビニエンスストアで見られる日常の光景から、賞味期限などを理由に日々行われる食品廃棄など、デザイナーのラロパイブン・プワデトが実際に疑問に感じたことをインスタレーションに落とし込んだ。 SDGsの取り組みにより、今シーズンはウールの産地・尾州最大の「西川毛織」を織り交ぜたファブリックを使用し、ゆったりとしたテクスチャーと鮮やかな優しいカラーが、独特の美しさを想像させ、静止画での造形美、歩行とともに生じる予測不可能な衣服の揺れはここから来ているのであろう。 また、コンビニに陳列されているカラフルな色や柄を取り入れたテキスタイルが今までにない華やかさであり、クリエイションがさらに進化したように感じる。 東京ファッションウィークも最終日を迎えたが、"新しさ”という点では群を抜いており、最後まで目が離せないコレクションであった。

伝統の無い自由な発想から生まれる東京のストリートをベースにしているブランド。 会場に到着すると、バンドの生演奏が会場を彩り、ドラムの颯爽とした華やかなリズムと共にランウェイがスタートした。 そんな胸が躍るような演出からスタートした今回のショーは、服の機能性を意図的に取り入れ、ディテールやシェイプにこだわりを持つことで結果的に機能性が追加されるという、「曖昧さ」がコンセプトに。 キラキラとしたスパンコールが散りばめられたビスチェにベージュのレザースカート、更にその下にビスチェと同じ素材のボトムスを組み合わせたスタイリングに冒頭から心惹かれた。 「シーズンを象徴するようなテーマ性の強いデザイン、エッセンシャルなデザイン、その両方ともに記憶に残るモノづくりをしたい。」 そう語るデザイナー茅野誉之の言葉から、素材選びとそれらを活かす技術を熟考した上でデザインしているのだという、強い意志を感じた。 また今回のコレクションでは「オニツカタイガー」とのコラボシューズも披露し、パワフルなクリエイティビティーにますます目が離せない。

雲ひとつない晴天の下、「身体に最も近い道具」をコンセプトに持つmeanswhileのコレクションがあたたかい空気感と共に幻想的にスタートした。 過去のアーカイブや代表的な作品からインスパイアされた様々な顔を持つ洋服は、伸びやかであり、想像力を掻き立てられる。 今回のパレットは、前回のシーズンに続き、ブラック、グレー、カーキといった落ち着いたカラーを基調としている。 そんな中、涼しく彩るライトブルーのシャツが唯一差し込まれ、60年代を彷彿とさせるデニムスタイルは落ち着きのなかに鮮やかなコントラストを持ち込んでいた。 また、小物としての展開も幅広く、道具としての機能を十分発揮した上でファッションに落とし込めるバランス感も大きな魅力と言えるのではないだろうか。 複雑なディテールやファンクションが際立ち、クリエイティブさが強く光る個性的なコレクションは、まるで"喜怒哀楽"を表現しているかのように感じられる。 コレクションに触れた今、時代を越えて着用できる、そんな1着に出逢えた気がする。 Photographer Gentaro Sakurada 櫻田 言太郎 Text Miku

制約のない構造や特殊な素材、手染めの技法を得意としているデザイナー、曽彦維。 出身地である台湾での生活や人々、物事から、現代のユニークな印象を表現している。 今回はファーストコレクションということもあり、あまり情報がなかった中でのショーであったが、パッと見たときの"圧倒的な美しさ"が印象的である。 気負わずリラックスとした雰囲気の中に、雨上がりの空のような淡い水色のカラーが組み込まれており、柔らかなシルエットにぴったりだ。 また、トランスジェンダーな要素も感じ取ることができた。 まっすぐな表現の中にピュアさと芯の強さが飛び込んできた。 沢山の可能性が秘められており、この先どう進化していくか、とても楽しみである。 Photographer Gentaro Sakurada 櫻田 言太郎 Text Miku Kobayashi 小林 未来 Instagram @irensense_official

フィリピンのファッションデザイナーたちによるコンピレーションブランドが昨シーズンに引き続き今回も登場。 中でも目を引いたのは、若きフィリピン人デザイナー、エリス・コーのウエアだ。 オールブラックのアシンメトリーのワンピースやセットアップ、またブルゾンのようなストイックなテクニカルウエアを、レースのようなエスニック素材で大胆に切り替えたコレクションがユニークである。 はじめは暗い雰囲気のシルエットが並び、スマートな印象を持っていたが、ショーが進むにつれ、袖口まで意識されたボディやフィット感のある素材の柔らかな姿を目にし、親しみやすい雰囲気を感じることが出来た。 国境を越え、モノリシックで幾何学的な美しさが日本のファッション美学と組み合わさる瞬間はとても魅力的だ。 会場ではフィリピン産のコーヒーが振る舞われ、旅に出かけたような心地良いひとときであった。 Photographer Gentaro Sakurada 櫻田 言太郎 Text Miku Kobayashi 小林 未来 Instagram @manilafashionfestival

今年でブランド設立30周年を迎え、東京でのショーは初開催となったA BATHING APE。今回のコレクションは第4部構成に分かれ、太鼓を用いた激しいビートの音楽のなか、日本の伝統的な暖簾をくぐるようにモデルたちは現れた。 第1部で目を引いたのは、ブランドのアイコンとなっている「ベイプカモ」の柄がふんだんに使われた蛍光色のセットアップに、丈の短いスタジャンと合わせたスタイリッシュなスウェット。 大量な猿がひしめきあうようにくっついたバッグも見逃せない。第2部にはバスケを象徴とさせるようなルックが続き、頭の形をはみ出るようなオーバーサイズのキャップと網目の荒いニット生地のユニフォームが印象的だった。 ショーの締めくくりに登場したルックで、会場内はざわめいた。このブランドの象徴の一つである「シャークフーディー」のフードで顔を覆い、立体的で目玉などが描かれた翼を生やした、まるでサメ人間の着ぐるみのようなデザインを着たモデルたちに思わず息を呑む。 まるでこれまでの「古さ」を食い破る、悪魔か天使か、そのどちらとも取れるようなサメの姿は、ベイプの未来への進化の意思を感じた。

”東京”をイメージに作り上げられた今回のデザイン。日本とスペインの出身であるデザイナーの二人がイメージカラーとして挙げているブラックやグレーとベージュを中心に、モダンでミニマムなスタイルで構成されていた。 体の線に沿わないようなオーバーサイズのデニムのセットアップ、窮屈さを感じさせないテーラードジャケット、髪を一房だせるように穴が空いたハットなど、控えめに工夫されたルックの数々。リラックスしたシルエットに、クラシックな素材とディテールが組み合わさっていることにより、”東京”という一見単純な都市のイメージからは到底想像できない、シンプルな上品さに目を奪われた。 Shoopのフィルターに通された”東京”はとても優雅で、日頃生活しているうちに見落としていた”東京”のもう一つの姿を見つけられるようなコレクションだった。 Photographer Gentaro Sakurada 櫻田 言太郎 Text Emma Tatsumi 辰巳 絵舞

「人生を取り巻くインスピレーション」をベースにしたブランドコンセプトに掲げ、日々の生活のなかで得た着想で洋服を解体し、再構築してきたSeivson。毎シーズン、エレガントで女性の体の新たな魅力を引き出すデザインが特徴的だ。 仕事の話をするような人々の話し声から書類を裂くシュレッダーの音に変わり、ショーはざわめきのなかで始まった。 “オフィスで働く女性”と”秘密”がコンセプトとなっている今回のコレクション。 ボディラインに張り付き、大胆でありながら洗練されたタイトなシルエットと、肌を見せるようにカットされたトレンチコートのショートドレスやセットアップなどが品のある色っぽさを漂わせる。 オフィスでは、普段の姿ではいられない。それゆえに働く女性たちは皆、秘密を抱えている。本来、エレガントとは程遠く感じる”働く女性”のスタイルを解体したSeivsonならではのルックは、まさに隠されている女性の”秘密”の姿を覗かせ、新たな女性の美の可能性を生み出したコレクションであった。 Photographer Gentaro Sakurada 櫻田 言太郎 Text Emma Tatsumi

舞台は8月の夏、満月が光る夜。配られたロマンチックな一輪の赤い花を手に夜風が私の肌に触れる。 平凡な日常に少々のドラマチックを”がブランドコンセプトの「MURRAL。 名前の由来は「MURAL = 壁画」から来ており、壁画の様に飾られた状態でも人を魅了し、ヒトの日常の中にある壁を彩っていきたいと言う思いが込められている。身近にあるものを題材にアイテム作りをするのが特徴的。 今回はデザイナーが見た優しく哀しい今はもう存在しない人の夢がきっかけになったコレクション”EUPHORIA”を発表。 ショーは真っ白な神秘的なドレスではじまり、暗い夜に一つの光、まさに月そのもののようだった。 中盤に見せた紫や水色の鮮やかなルック達は夢の中の楽しい記憶を表しているのだろうか?生き生きとしたエナジーが伝わる。 所々に見えるキラキラと金銀に光る装飾は夢も希望もまだあるぞと強い意思を放つ。強く照らされたスポットライトの元でそれらは堂々と現れた。 人々を前向きに励ます素敵なコレクションだと感じさせられ胸が熱くなった。