
”明るいのか暗いのかわからない青春の空気と、そこにいる彼らの装い” 今季の軸となるのは、テーラリングをはじめとするフォーマルウェア。 テーラードジャケットやロングコートは、ショルダーを誇張し、ラペルの重心は極端に上方へと設定することで力強く仕立てている。 ファーストルックは、”ブランドのファン”であったという17歳の少年を起用し、シルバーのボタンが光るジャケットのセットアップを披露した。 不思議な雰囲気を醸し出すレイヤードと、エレガンスでストイックなバランスが魅力的である。 また、ラストルックには女優・モデルとして活動している水原希子が登場し、オールブラックのマキシコートをクールに着こなした。 瞬きを忘れるくらいにかっこよく、美しく、洗練されていた今回のコレクション。 最終日のトリに相応しい力強いショーで、今季の東コレを締めくくった。 Photographer Gentaro Sakurada 櫻田 言太郎 Text Miku Kobayashi 小林 未来

今季のコレクションの題目となったのは、脳の神経細胞“ニューロン”。 生物の脳を構成する神経細胞のことであり、人間の脳の場合にはこの細胞が100億から1000億程度あるといわれている。 ニューロンの不安定ながらも強く広がっていく様子が、どう抗っても完璧ではいられない人間の行動や感情と重なった。 今回のコレクションではデザイナーとしても活躍するヘヴン・タヌディレージャならではのユニークで大胆な発想が存分に発揮されている。 繊細で流れるようなシルエットが、びっしりと赤いスパンコールをあしらったトップスやブルゾン、ショートパンツに落とし込まれており、エレガントに仕立てる妙は”さすが”の一言である。ジョン・ガリアーノの下で舞台スタッフを務めた経験を活かし、アクセサリーなどの小物使いにも力を入れた。 ”完璧さを求めるのではなく、予想外の出来事や失敗から逃れることをしない”と意志を語り、事実を受け入れることこそが、強さへと繋がっていくのだと感じた。 ユニークで大胆な発想を持ち、進化し続けるブランドに今後も注目していきたい。

NTTドコモとのコラボレーションによって実現した今季のショー。 社会問題にもなっている“歩きスマホ”の防止をテーマとし、人とスマートフォンとの関係性を見つめ直すきっかけになること目的としたコレクションを展開していく。 「リコール」のメインコレクションでは、中綿を入れたネクタイ風マフラーやゴブラン柄の毛布を使ったコート、またギャザーが特徴的なスカートなど、オリジナリティ溢れる作品が登場。 ショーが終盤に差し掛かると、ランウェイには吹き出しのようなクッションを重ねたドレスを身に纏う女性が現れた。 女性は昨年紅白にも出場した「Awesome City Club」のボーカル、PORINである。 彼女を筆頭に、スマホのアイコンや絵文字などをモチーフにしたルックのモデルたちが次々と登場し、社会問題となっている歩きスマホへの注意喚起のメッセージを演出に落とし込みステージを彩った。 ブランドの強みであるダイナミックなデザインを取り入れつつも、斬新な演出に心が躍った。 求める物と求められる物が混在する街を見ているかの様な、そんなステージだった。

“夢と空想の旅” コレクションを通じて提案されたのは、「天使」「流星群」「豹」「バルビアネッロ」の4つのキーワードを軸に作られたドレス。 デザイナー、増田の頭の中にある願望や夢・妄想から創造する物語をオートクチュールに落とし込んでいく。 分量を贅沢に使った昔の童話に出てくるような洋服たちで世界観が確立されており、他ブランドと比べ独創的だと感じた。 一方、”日常ではあえて表現することのない違和感を、デザインに落とし込んだ物作りを提案すること”をブランドコンセプトとしている「サヤカアサノ」の今シーズンのテーマは“いとおしさ”。 “いとおしい”と“いたわしい”という、相反する感情をキーワードにしたコレクションを展開し、様々な表情を見せてくれた。 “寝起きの瞬間”にフォーカスを当てたステージでは、自分の中では“だらしない”と感じることでも、相手にとっては“かわいらしい”と感じる、寝起きの瞬間が随所に落とし込まれている。 生憎の雨であったが、ランウェイの最後に登場したデザイナー2人の表情は晴れやかであった。 個性溢れる二人の作品に今後も目が離せない。

“further” 毎シーズン、静けさや強さを内包した洋服作りを行っているシュタイン。 今季のテーマは“further”。 その言葉が意味する通り、“より一層踏み込んだ”コレクションをお台場・テレコムセンタービルにて発表した。 円形のランウェイを歩くモデル達は、シルエットが強い存在感のある一着を身に纏い、カジュアルとモードが融合した唯一無二な雰囲気を醸し出す。 今回のパレットは、前回のシーズンに続き、ブラック、グレーカーキ、グレーベージュといった落ち着いたカラーを基調としている。 そんな中、涼しく彩るライトブルーのシャツが唯一差し込まれた60年代を彷彿とさせるデニムスタイルは、落ち着きのなかに鮮やかなコントラストを持ち込んでいた。 そしてショーのラストに登場したクラシカルなムードを湛えたチェック柄のトレンチコートは、鮮やかでありとても印象に残っている。 つい二度見してしまう様な洋服を作り続けているこのブランドから、圧倒的なクリエイティビティーを感じた。次回のコレクションが待ちきれない。 Photo Gentaro Sakurada Text Miku Kobayashi

フランス語で、登録する・刻み込むといった意味を持つ”INSCRIRE”。 クローゼットの中に自分の好きなものが少しずつ蓄積され自分のスタイルを作っていく様子をイメージし、物があふれる時代に一点一点こだわりを持ち、時代を超えて愛されるもの作りを目指している。 ブランドコンセプトはSTREET LUXURY。 普遍的でありながらもオシャレなシルエットがインパクトを与え、遊び心があるスタイルで着る人のパーソナリティを引き出している。 今回のコレクションでは色がシンプルな分、素材の特徴を活かした構築的な大胆なミックス感に圧倒された。 ヘアターバンやハット、スカーフなどの小物使いが幅広く、魅力的である。 また、一つ一つのスタイルに同系色で合わせたレイヤードスタイルが組み込まれており、洋服一枚一枚にユーモアが溢れ、迫力あるデザインに惹かれた。 手持ちのクローゼットのアイテムにINSCRIREのアイテムをプラスすることで新しい自分に出会うことの出来るような、そんなワクワクするコレクションであった。

ショーが始まると僧侶が登場し、お経を唱えはじめる。 そんな、胸が躍るような演出からスタートしたランウェイは、渋谷駅から徒歩5分の”CIRCUS TOKYO”ライブハウスで行われた。 音楽レーベルを立ち上げた経歴を持つ、デザイナーの山下達磨らしい服と音楽の融合。 彼のファッションの近くには常に音楽が存在し、自身の強みを最大限に活かしていた。 今回のコレクションでは、ウール・綿・ポリエステルの糸が複雑に織り込まれたジャカード織や、異素材の組み合わせによって表現された幾何学的なテキスタイルなどが登場。 視覚的にも楽しめる異素材や配色使いも意識しながら、且つ、日常にあったら嬉しい機能を兼ね備えたアイテムで溢れていた。 インスピレーションは”社会問題の光と影”、そして”その時々で自身のフィルターに引っかかった事柄について”。 ショーの中盤で二人の男性が手を繋ぎ、一人の男性がもう一人の男性の首元にキスをする場面があった。 ジャンルに縛られる事無く、年齢や性差を超えたジェンダー要素がふんだんに組み込まれていた。 コレクションを"服と音楽で見せる"というコンセプトに、痺れたコレクションであった。

渋谷駅西口タクシープールを舞台に行われた今回のコレクションを紐解くキーワードとなるのは、「多様性」。 ショー開始の10分前になると、自撮りをしている女子高生、ミュージシャン、買い物帰りの主婦、スケートボーダーなど、様々な職業の人に扮したエキストラが現れ、会場は渋谷の街のようなムードに包まれた。 また、ランウェイショー本番にも、人種や性別、体型、年齢の異なるモデルたちが次々に登場。 モデル達の衣装には、パキッとしたポップな配色が使われ、揺るがないブランドアイデンティティで溢れるステージは自由な世界観が確立されていた。 「洋服は着る人のアイデンティティや知性を表現するもの。それを一つのコミュニケーションツールと捉え、生活の様々な瞬間に繊細かつ大胆、そして立体的な美しさを届けたい。」と語るデザイナー、三浦メグ。 その言葉通り、リアルな生活シーンにファッションが溶け込み、コレクションを身近に感じることができた。 さまざまな色やスタイルを自由に楽しむ人々、それぞれが繋がっていく様が観客にはっきりと伝わる、そんなステージから目が離せなかった。

7つのブランドを引き連れ、日本製の生地とフィリピン固有の素材を組み合わせたオリジナリティ満載のファッションが登場。ホワイトカラーで統一された”新しい動き”をコンセプトに持つ「ALODIACECILIA」のランウェイからスタートしたショーは、新たなブランドの登場と共に、異なった表情を次々と披露していく。 中でも、会場の雰囲気をガラッと変えた「THIAN RODRIGUEZ」のファッションは、上下の組み合わせが美しくディテールが繊細であり、個性が光っていた。 その後もスリットを入れたジャケットとパンツのセットアップ、パステルカラーを基調としたロマンチックなレースのフリルドレスまで、様々な系統のファッションが同じステージの上で融合し、調和の取れたステージを繰り広げた。 一つ一つのブランドの色を上手くスタイルに埋め込み、雰囲気に引き込まれるコレクションだ。 Photographer Gentaro Sakurada 櫻田 言太郎 Text Miku Kobayashi 小林 未来