"good memory" デビューの2015年から一貫して「日本人の精神性」を題材にし、和魂洋才のインテリジェンスを、テーラリングに合致させるという信念のあるブランドコンセプトを持つ。 今回、デザイナー大月壮士は父親が脳梗塞で倒れたことを機に「品」と「死生観」について考え始め、2024年秋冬コレクションの製作をスタートしたという。 ケープのようなポンチョや着物袖のパターン、滑らかな意匠性の高いテキスタイルを生かし、トラッドなメンズアイテムの着こなしを女性的なニュアンスで仕上げる。 洗練された佇まいのなかに、ノスタルジックな風景、優美さ、歴史、あるいは暮らしの記憶など、それぞれの視点から見える自由さを共有し、共鳴し合っているコレクションであった。 ファッションというものの本質を、ファッションショーというものの本質を抉るように。
"COUTURE RHYTHM" 上品な印象を醸し出すなめらかな生地と、オーバーサイズシルエットが魅力的なmister it. 壁も床もブラック一色のシックな空間に現れた2024 A/Wファーストルックは、ベージュのシンプルなジャケット。 胸元には今回のテーマである"COUTURE RHYTHM"の大きな文字をあしらい、ニット素材のロングタイツが柔らかくアクセントとなっている。 ベージュからホワイト、ブラック、ワインレッドを経てイタリアンレッドに至る色使いの変化には、ビジューのような立体的なハートの小物が合わせられており、チャーミングでプレイフルなムードを漂わせた。 アンニュイな色味や刺繍など、ユーモア溢れる細かなディテールに心を掴まれ、つい二度見してしまう程に、魅力で溢れていた。 きっと洋服を身に纏った日には、生活の中に大きな彩りを与えてくれるに違いない。
“Matera” 今回のショーのコンセプトは、”Matera(マテーラ)“だ。 洞窟住居や洞窟のレストランのある、イタリア南部世界遺産の街マテーラ。ユニークで幻想的な歴史ある光景を見たデザイナーは、クラシックとモダンが融合したその街のインスピレーションを今季のスクールスタイルに乗せている。 ミリタリー、セーラー服、ブレザー、プリーツスカートなど”制服”にはあらゆるパーツが決められている。しかしショーではその枠を広げるように、ボリューミーなフリルを裾に施したブレザーや迫力のあるネクタイリボンのブラウス、日本の小学生ならではのランドセル型のリュックが登場し、思わず視線を奪われた。 スクールルックというジャンルを追求しながら、それに縛られることなく、独自に進化を続けていくクイーンアンドジャック。ショーを見ているうちに、ファッションには一つ一つにはさらなる可能性を秘めているということにも改めて気付かされ、ワクワクした。これからも”制服”というデザインを突き詰めるブランドの歩みに注目したい。
”Sense of the discomforts” 「日常に誰もが感じるちょっとした違和感、それが時代をつくりあげる」 今季、目指すのは「違和感」だ。 人工知能と共作した音楽が用いられ、鳥のさえずりや水滴の音など自然界にインスパイアされた音色と都会の喧騒や無機質な機械音が会場を満たした。共鳴しあえない「違和感」のある音同士が、人間と人工の協力によって生み出されたまさに「新しい時代」の音楽だ。 これまでに都会的なルックを展開してきたタエアシダ。今回は自然界の色彩の鮮やかさを表すようなカラーパレットと上来のダークなパレットを組み合わせを使いわけ、まさに「違和感」という感覚がもたらすことができる、新たな時代のビジョンに魅せられたコレクションだった。
“ memento mori “ 今回のコレクションに込めたメッセージは”memento mori”。 ラテン語で「自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな」「人に訪れる死を忘ることなかれ」といった警句の意味であるが、今回のコレクションでデザイナーであるループ志村は、「再生」や「復活」という意味を選択したという。 17世紀を彷彿とさせるアンティークファブリックを用いたジャケットやレザー生地のロングコート。今季は特に迫力のあるボリューミーな襟が多様に用いられ、ミリタリーなテイストと神父服をモチーフにしたガウンや一角獣などの刺繍など神聖なルックがミックスし、清廉でありながらどこかカジュアルな印象を受ける。 人は「死」から逃れられない。私たちはいつも死者に対して鎮魂を捧げるが、同時に心の底では「復活」を祈っているのではないか。そうした「復活」というものを諦める必要はないというデザイナーからのメッセージに、私たちの運命について深く考えさせられるショーであった。
クラシックとコンテンポラリーを共有するリアルクローズとしてのキモノ・スタイルを提供してきたジョウタロウサイトウ。 今回のコレクションでは〈陰翳礼讃〉をプリズムインザシェイドとして再解釈とアレンジを加え、現代キモノスタイルの新たな提案を心みている。 「薄暗い灯りに象徴される日本の伝統美として論じられた〈陰翳礼讃〉はいつも私のモノ創りの一片にある」とデザイナーは語る。 陰と光。まさに日が当たらなければ分からない花の柄やダークなカラーパレットと、グリッターでできた輝く帯やイエローやブルーのヴィヴィットカラーの鮮やかな着物などの相反したルックは、西洋が入り混じる現代と日本の伝統美の調和を諦めず、共存していこうとするジョウタロウサイトウの挑戦を感じられた。
tanakadaisuke タナカダイスケ 2024 A/W 「おまじないをかけたようなお洋服で、自分の中にいるまだ見ぬ自分と出会えますように」 そんなコンセプトを掲げ、刺繍をベースにロマンチックで幻想的なコレクションを展開しているこのブランド。 会場に入ると、キッズゲームを想起させる軽快なサウンドから「おまじない…」という女性の囁きのような歌声とともに、ショーは始まった。 ステージの中央からは、星型のスパンコールやラインストーンが降り注ぎ、そこを歩くモデルたちは存在自体が反射して宝石のようにきらめく。 中でも大きな花が縁取られたレースシャツに、サテン生地のキャミソール型コルセットの組み合わせは、あどけない少女のガーリーさと成熟した女性のエレガンスさが見事に調和し、洗練されていた。 「手でしかできないことを突き詰めたい」と語るデザイナーの言葉通り、レース柄をすべて透明なビーズで繋いだタンクトップやラメが刺繍されたヴェールなど、まさに私たちの身体におまじないをかけるような、「まだ見ぬファッション」の姿が存在していたショーであった。
「タナカ」はニューヨークを拠点にするデザイナーのタナカサヨリと、クリエイティブディレクターのクボシタアキラのデュオによる、日本製のデニムを強みにするブランド。 会場に入ると大きなグランドピアノが出迎えてくれた。ニューヨークの街でストリートミュージシャンの音楽を聴くような、生き生きとした空間演出に胸が高鳴った。 日本市場には身体の線を拾わないこと、きれいめであること、などといった良い意味で一定の”嗜好性”や”普通性”がある。 そんな中、日本らしい丁寧さやクリーンさ、上質さは大切にしつつも、ニューヨークならではの多様性を基点とし、自由でオリジナリティ溢れるデザインを展開している姿に大きな感銘を受けた。 多様な文化が混ざり合う”自由さ”に沢山の刺激を貰った。 今後も目が離せない。
"TIME IS BLIND" 今回のテーマは“恋は盲目”を意味する「LOVE IS BLIND」になぞらえて作り出した造語であり、流行り廃りのめまぐるしい現代の時間軸を、ファッションを通して見つめ直す意図を孕んでいる。衝動性と普遍性、ファッションを巡って移ろう時間の二面性を表現した。 舞台は猥雑さと昭和の香りが残る”渋谷百軒店”。 関東大震災直後に「百貨店」をコンセプトに形成された商店街であり、渋谷の街であることを忘れさせてくれるような雰囲気を持つ。 夕方を過ぎ、人の影と色が濃くなってきた渋谷の街に突如太鼓の大きな音が鳴り響いた。 商店街の一角にマーチングバンドが姿を現したのだ。音楽ルーツからエッセンスを取り入れているKAMIYAのショーにぴったりである。 音楽が響き渡る中、颯爽とモデルが姿を現した。 洋服のカラーはカーキをベースとし、ワークウェア・ミリタリーウェアを中心にあらゆるアイテムに取り入れられていた。 今回、ワントーンカラーで纏まったスタイルも多く、シンプル且つ新鮮な色使いであった。